碇 望さんにインタビュー

「にしんずしは敦賀の大切な文化なんだ」
わたしとつるが 01 | にしんずし特集発行記念インタビュー


わたしがにしんずしに出会うきっかけとなったのは、敦賀で化粧品店を営む碇さん。
『わたしとつるが』本誌でも各所に登場していただきましたが、一体なぜ碇さんはこれほどにしんずしを熱く語るのか、また碇さんが目指すにしんずしと敦賀についてインタビューしました。



■にしんずしと碇さんの関係

敦賀出身で、幼い頃からにしんずしを食べていたという碇さん。しかし当時は「それほど美味しいとは思っていなかった」のだとか。

碇さん:「親戚のおばちゃんがもってきてくれて食べていましたが、当時はこんなに生臭いものをどうして食べるのかとか思っていたほどで、思い入れはなかったです。変わったのは2〜3年前。ある年の正月に、お店のお客さんからいただいた手作りのにしんずしと、買ってきたにしんずしを食べ比べたら全然違って。同じにしんずしでも一括りにはできない個性があると知って、そこから目覚めました。『正月はにしんずしと酒さえあればいい』くらいにハマったことも。にしんずしは、幼いころは好きでなくてもやっぱり懐かしい敦賀の味なんですよね」


碇さんが魅力に感じたにしんずし文化とは、「脈々と受け継がれてきた、家庭ごとの味」のようです。しかし、最近はそんな長年続く文化も存続が危ぶまれるそう。

碇さん:「そもそも、家庭で漬ける人が減ってきていることを知って。僕は、実家の化粧品店を継ぐ前、ローカルチェーンスーパーの水産チーフとして魚売り場で働いていました。ちょうど20年くらい前かな。当時、敦賀では身欠きにしんの木箱が、敦賀祭りや年末になると飛ぶように売れていたんです。あまりに売れるものだから昔はドル箱のようにも見えた木箱も、『今では昔ほど売れていない』と、数年前に当時の同僚から聞いたんです。身欠にしんの価格も高騰していますし、当時漬けていた方はもう亡くなっていてもおかしくない。もしかしたらこのままでは家庭で作られていたにしんずしの文化は無くなってしまうんじゃないかと思って…」

ちょうど同時期に、特定非営利活動法人THAPの活動を通してまちづくりに携わるようになった碇さんは、「にしんずしが敦賀に訪れるきっかけになったら、この文化を後世に繋げられるのではないか」と考えるようになったといいます。

■敦賀に立ち寄るきっかけに

化粧品店を営む碇さんがにしんずしを熱く語るワケは、日頃から関わるまちづくりの活動とご自身の体験や思いが結びついたから。本誌P6~7の「にしんずし座談会」では、「立ち飲み屋を作りたい」と語っていただきましたが、そんな“碇さんの夢”を本誌よりも詳しく教えてもらいました。

      にしんずし座談会参加者の皆さんと

碇さん:「まずは、究極のにしんずしを作りたいんです。さんざん食べ比べてきて、にしんずしであればなんでもOKではないことがわかって。ニシンも高騰しているので、「庶民の味」というよりも、これからは味も、発信も、売り方ももっとこだわった逸品にしていかなければと思っているんですそのためには、愛され続けてきた「○○おばあちゃんのにしんずし」を作れる方が必要で。僕には最高のにしんずしを作れる経験も知識もないので…。製造環境を用意して、そこで達人に作ってもらうんです。本当に美味しいにしんずしであれば、少し高い商品でも、『こんなに美味しいのなら』と納得していただけるものが出来んかなと」

にしんずしを製造・販売するためには、福井県食品衛生条例の漬物製造業許可が必要です。さらにその許可取得には専用の設備が必要というなかなかの障壁ですが、”箱”を用意することができれば、達人に作ってもらうことは可能かもしれません。しかし、これほど多様な味と好みがあるにしんずしにおいて「究極の味」を決めることができるのでしょうか…?

碇さん:「色々実験してみて、一つに絞れなかったら「〇〇おばあちゃんの味(甘め)」みたいに、タイプで5種類くらいに分けてもいいかもと考えています。にしんずし5種類とお酒の食べ比べセットで1200円くらいかな。冬だったら熱燗もいいね。食べ比べてもらって、『3番の○○おばあちゃんのが美味しかったからこれ買って帰るわ〜』と、お土産にしてもらって…、みたいな。こういうことができたら面白いと思うんだよね」

同じにしんずしでも味が異なることに着目しタイプ別に商品化するというのは、今までにないにしんずしの商品かもしれません。家庭ごとの味があるという敦賀らしい「にしんずしのあり方」を観光客にも、さらには地元の人にも知ってもらうきっかけになりそうです。さらには、「出店場所にもすでに理想がある」と碇さんは語ります。

碇さん:「座談会の時には『駅前に立ち飲み屋を』と思っていたけれど、今は気比神宮周辺がいいなと思っていて。駅前の方が集客はしやすいのかもしれませんが、今までは氣比神宮だけで帰っていたお客さんが交差点を一本渡ってくれたり、駅から目指してもらえたりと、にしんずしが敦賀の町を歩いてもらうための強いコンテンツになったらいいなと思うんですよね

■動き始めるには今しかない…?

かなり具体的な目標を持つ碇さんですが、何か実行に向けた動きはあるのでしょうか…?思い切って聞いてみました。

昨年開催のにしんずし講習会では、
碇さんも初めてのにしんずし作りに挑戦!

碇さん:「昨年から、Facebookで『にしんずしを漬けた』という投稿を見かける頻度が高くなって、なんかにしんずしキテる気がする。

だから今しかないと思っていて。そのためにはまずは美味しいにしんずしを作るための実験をして、粗利を計算することですね。これが成り立たないと何をやっても続かないので。(笑)究極のにしんずしを作るためには原材料にもこだわりたい。身欠にしんにもランクがあるのでどのにしんが本当に良いのかも実験していかなければいけない。さらに、いくらの売価でいくらの利益が出るのか。パッケージもデザインして。ちゃんと作ってくれたおばあちゃんにたくさん還元できるようにして…」


インタビューでは「今年からちょっと動こうかな」と、頼もしい宣言をしていただきました。事業を継続させるためには「まずは粗利から!」という経営者ならではの視点からも、にしんずしを後世に継承していきたいという強い愛を感じます。

移住して半年。碇さんとの出会いをきっかけに、「こんなに地元の人を熱くするにしんずしとは一体何者だ!?」と興味を持ったわたしも、今ではすっかりにしんずし沼にハマってしまいました。今後にしんずしはどのように広がっていくのか…?引き続き注目して行きたいと思います。


場所提供:cocktail bar GUILD
撮影:堀井省吾