中華そば一力 代表・菅井宏治さんにインタビュー

飛躍を支えた「一力GT麺」の存在

わたしとつるが02 |めん特集発行記念インタビュー

『HYPER LOW-CULTURE ZINE わたしとつるが02』が6月30日に配布開始となりました。今回の特集テーマは「めん」。それも、敦賀の製麺所が作る麺についてです。ここでは本誌で書ききれなかった、敦賀の有名ラーメン店「中華そば 一力」と「小川製麺」が開発した「一力GT麺」について、一力代表・菅井宏治さんへのインタビューをお届けします。



今年5月発売の「ミシュランガイド北陸2021特別版」にて、福井県が初めて取り上げられた。敦賀からは5店が「ミシュランプレート」に選ばれたが、そのうちの一つが「中華そば一力」だった。「中華そば一力」は、昭和33年に屋台ラーメンから始まり、昭和52年には店舗を開業。2008年には『新横浜ラーメン博物館』に北陸勢として初出店を果たすなど、敦賀ひいては福井・北陸の名を広める名店。県産や国産など、材料へもとことんこだわるこの店が使用する麺は、小川製麺という敦賀の製麺所が作る特注麺だ。


菅井さん:「ちょっと変わった麺を作ったから使ってみないか」と、ある日小川さんが飛び込み営業に来たんです。創業者である親父が中心となって、店を切り盛りしている頃でした。当時、私は彼と面識なかったのですが、父はもともと小川家とも付き合いがあったみたいで。なんでも、父は小川家からラーメン屋台を斡旋してもらったらしいんですよ。

父は、小川さんにとてもやる気を感じたんだと思います。「値段のことはいいから、一番うまいもんをもってこい」と言いました。当時、買い叩かれたり、集金に行っては支払いを先送りにされたりすることもあったようですから、きっと小川さんも嬉しかったのだと思います。彼の職人魂に火がつき、「一力GT麺」が誕生しました。




実は、一力の創業者である先代も敦賀の製粉会社出身。今はもう無くなってしまった西村製粉製麺所に勤めたのち、ラーメン屋台で起業をしたそう。いわば、二人とも製麺のプロ。そんな先代と小川さんが力を合わせて開発したのが「一力GT麺」だった。

菅井さん:Gはグルテン、Tはタピオカ粉のことです。詳しいことは企業秘密なので言えませんが、使用する粉が特徴で。一般的に、麺には準強力粉を使うのですが、この麺には、あえてパン用の強力粉を使っています。もちろん国産の最高級小麦粉です。実はこの小麦粉にも思い出があって。

ある年、大手製パン企業が強力粉を買い占めてしまい、それまでウチが使用していた粉が手に入らなくなったことがありました。小川と二人で国産小麦を探し回って、ようやくパン用の小麦粉を作る北海道の小さな製粉所を見つけることができて、店のこだわりを守ることができました。こんなにフットワークが軽い業者さんはなかなかいないでしょうね。これが小川さんの凄さなんですよ。

私自身、一力のラーメンはまだ未完成だと思っています。この世の中にはまだまだ知らない食材も調理法もたくさんある。それなのに完成だなんてとても言えない。いつまでも『また食べたい!』とお客様に思っていただけるよう、常に味は変えていっています。変わらないために、変えていくのです。


フレンチの経験も持つ菅井さんにとって、ミシュラン掲載は「神様からのご褒美だと思った」という。観光客から地元民まで多くの人々に愛される中華そば一力の飛躍の歴史は、ラーメン職人と麺職人がタッグを組んで作り上げた、特注麺の存在抜きでは語れないかもしれない。



中華そば 一力

福井県敦賀市中央町1丁目13-21
0770-22-5368
営業時間:11:00〜19:00(火曜定休)
http://www.bitlabo.com/~ichiriki/

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写真:山崎 友也