(一社)敦賀観光協会・西ノ上健さんにインタビュー(下)

度重なる困難を乗り越えて開催する、敦賀とうろう流しと大花火大会の工夫

毎年8月16日に、福井県敦賀市で開催される恒例行事「とうろう流しと大花火大会」。2020年からは、コロナウイルス感染拡大対策のため、来場者の分散や花火大会のCG開始など、敦賀観光協会率いる主催者は、さまざまな工夫を凝らし、その開催を守りました。

後半ではその工夫に対するお客様の反応や、パワーアップした今年度の開催について、前半に引き続き「とうろう流しと大花火大会」を担当する、一般社団法人敦賀観光協会の西ノ上健さんにうかがいます。


■温かい反応

「コロナ禍でも、戦後から続く敦賀の伝統を絶やしたくない」という想いから、新しい方法が編み出されたとうろう流しと大花火大会。今までとは異なるスタイルに対し、お客様はどのような反応をみせたのでしょうか。

まだ辺りが明るいうちからとうろうを流す来場者。



西ノ上さん:「精一杯さまざまな対策をしていますが、正直なところ開催すること自体に賛同いただけなくてもおかしくはないと思っていました。もちろん、来場自体を辞退された方もいらっしゃるとは思いますが、開催に対する批判的な意見をいただくことはありませんでした。むしろ『大変な中ご苦労様』や『開催してくれてありがとう』など、とても温かい言葉をいただくばかりで、本当にありがたくて。報われた気持ちになりました」



YouTubeでのCG配信となった花火大会にも西ノ上さんは「手応えを感じた」そう。

YouTubeでライブ配信されたCG花火。
本物の写真と比較してもどちらがCGかわからないほどのクオリティ


西ノ上さん:「当日は、約5000人のほどの方々に視聴いただきました。全国から見ることができますので、敦賀に帰省ができない県外の方も、地元の夏の風物詩を感じてくださったようです。普段の開催では、お客様からの反応を直接聞くことはないのですが、CG配信の反響は、YouTubeのコメント欄やSNSで直に受け取ることができて新鮮でした。『元気が出た』『企画してくれてありがとう』『生まれたばかりの子どもに初めての花火を見せられました』など、本当に暖かいコメントが多くて。気持ちが凹んだ時には、今でもC G配信に寄せられたコメントを見返して励まされています (笑)」


■サプライズ花火で医療従事者の皆さんへ感謝の気持ちを

お客様の協力や理解もあり、無事新しいスタイルを確立した昨年に引き続き、今年の「敦賀とうろう流しと大花火大会」はさらにパワーアップを遂げたようです。

西ノ上さん:「感染症対策は昨年同様、実施時間の延長と読経スケジュールの非公開、花火大会のCG配信という形で実施しました。今年も5000人ほどの方にご視聴いただきました。昨年はアーカイブ放送が再生回数3.5万回ほどでしたが、今年はどこまで伸びるか楽しみですね。あとは、今年は新たに『サプライズ花火』も実施しました

昨年同様、19:30から始まった「#おうちで敦賀花火大会」。映像が終了すると、今度は外から花火の音が…。松原海岸で、サプライズで本物の花火が打ち上げられたのです。

およそ1000発のサプライズ花火が夜空を彩りました


西ノ上さん新型コロナウイルス感染症の終息祈願と、医療の最前線で尽力される医療従事者様への感謝の気持ちをお伝えしたいという想いから、サプライズを実施しました。医療従事者さんに感謝の気持ちを伝えることで、皆様に今一度コロナの脅威を考えていただくきっかけとなればと考えました。サプライズということで、さまざまなご意見をいただいていますが、『頑張ろうと思った』など、私たちが花火を通して伝えたかったことを、汲み取って下さったと思えるコメントがSNSでも見受けられて嬉しかったです」




サプライズ花火は、地元ケーブルテレビの嶺南ケーブルネットワークでも放送され、敦賀市民はテレビ画面で観たり、家のベランダから眺めたりして、3年ぶりの花火を楽しんだようです。


■続けていくために、変化していく。

コロナとの戦いも今年で二年目。今までの当たり前が通用しなくなった時代で、今まで守り続けてきたものを絶やさないためには、時代にあったカタチへと変化が求められるのではないでしょうか。敦賀の伝統行事、「とうろう流しと大花火大会」では、過去にもとうろうを手作りの桟俵から、環境面等への配慮から水に溶ける素材へ変更をするなど、時代に合わせた変化を度々してきました。

水に溶ける素材でできた新しいとうろう



西ノ上さん:「とうろう流しが始まったのは戦後まもない頃ということで、おそらく食べ物も十分な時代ではなかったと思います。その中でも故人のために(当時はナスやきゅうりの飾りなどもあったので)少ない食料を供えるなど、当時の方々の気持ちは計り知れません。先人の想いが詰まったすごいイベントに携わらせていただけることを誇りに思います。だからこそ、本当は手作りの桟俵も絶やしたくはなかった。しかし、昔のままを守り続けるのには限界がありました」




行事の変化を惜しむ西ノ上さん。その伝統の重みを知る者として、敦賀観光協会では小学校への出前授業などを通して無くなってしまった伝統も一緒に後世へ伝えています




西ノ上さん:「2019年の台風に始まり、3年間さまざまな理由で本来の形でイベントを実施できていません。敦賀のとうろう流しと花火大会は、松原海岸の白砂青松と穏やかな敦賀湾、そして敦賀半島や嶺北側に聳える山々に囲まれるオンリーワンのロケーションが特徴です。新しい形で開催してきたからこそ、より一層本来の姿の素晴らしさを実感しました。来年の8月16日こそはそれをみなさんにも感じていただきたいです。」



変わることで本来の良さに気づく。これもまた、やってみたからこそわかるものだと思います。70回以上も続く伝統行事は、時代の変化とともに変わり続けてきました。だからこそ、先人の思いやまちの誇りが新しい世代へときちんと受け継がれているのではないでしょうか。