愛発ん家代表・澤村梨恵さんにインタビュー

「愛発地区」から “愛”を“発”信するに至るまで

敦賀市と滋賀県との県境には、自然豊かな里山があります。かつては敦賀群愛発村だったことから、今もこの辺りは「愛発地区」と呼ばれています。

そんな愛発地区を中心に活動をしているのが「愛発ん家」。高齢単身世帯へのお弁当の配布、障害や不登校児の支援などを行うボランティア団体です。現在は活動拠点となる「ふるさと茶屋 愛発ん家」の改修工事が進んでいます。この団体の代表を務める澤村梨恵さんは小浜市出身。愛発地区の刀根に移住し、この団体を設立しました。

団体設立の経緯をうかがうと、その背景には波乱万丈な彼女の人生がありました。「血の繋がっていない家族がいっぱいいる」と語るほど多くの人との出会いを経験してきた澤村さんの人生とは?

お話をうかがった澤村梨恵さん。インタビューを行ったこの日は愛発ん家が主催する「原木しいたけ」の菌打ちイベントが開催されていた

■農への興味から福井へUターン


全ての始まりは、「有機野菜ってどこまで有機なんだろう?」とスーパーに並ぶ野菜に疑問を抱いたことだったそう。好奇心が膨らみ、当時暮らしていた大阪から福井へとUターンしてきました。

このイベントは滋賀県の農家さんの協力のもとで開催。菌打ちのためにドリルを駆使して原木に穴を開ける姿がたくましい

澤村さん「以前、オークションに興味を持ってやってみたら上手くいった経験から、なんでもやってみたらできると思っていたんです。じゃあ農業もできるかもしれないと、そう思いだしたらいても立ってもいられなくて、地元福井県に戻ってきました。小浜より福井市の方が情報もあるだろうと、福井のハローワークに通って農業の仕事を探しましたがこれがなかなか見つからなくて…」

そればかりか、0歳と4歳のお子さんを抱えていた澤村さんに、「子供がいてその生活は生きていけない」と咎める人ばかり。それでも諦めませんでした。

澤村さん「ご縁があって、大野や勝山などで農家さんのお手伝いをさせていただけるようになって。そこではメロンやトマト、育苗の勉強などをさせてもらっていましたが、夢半ば。家庭の事情で小浜に帰らなければならなくなってしまいました」

小浜では、「いつかまた自然に囲まれて生活をする時のために」と、介護の仕事に従事します。

澤村さん「また山の方で暮らしたいと思っていたんです。山村部はご高齢の方がたくさんいますが、わたしがそこで暮らし始めたら地元の方々にはたくさん助けていただくことになると思います。その分、何かあった時には私がすぐに手を差し伸べてあげられたらと思い、介護の資格を取得しました。そろそろまた農に携わりたいと思っていた時に、敦賀の農家さんからお声がけいただき、愛発地区の中でも刀根という場所に引っ越してきました」

ハンマーで原木に菌を打ち込む。会話を楽しみつつ、一つ一つの作業を実際にやってみせてくれた

多くの場所を転々とされてきた澤村さんに、愛発での暮らしについて率直な感想を伺うと、「ここでの暮らしは本当にお金がいらない」と日々充実している様子。

澤村さん「お金を稼いで生活していくという固定観念がひっくり返りました。楽しいことやワクワクすることを先に始めたら後からお金や必要なモノがついてくるんです。例えばこないだは、愛発でお茶を育てている人がいて、お茶の作り方を教えてもらいました。『このお茶の葉で紅茶が作れる』と言うので、紅茶も作ってみたり。身の回りのことだけでいろんなことが楽しめるんです。愛発には、そういう暮らしの知恵をたくさん知っている楽しい人がたくさんいます」

■愛発ん家は「みんながハッピーになれる」団体

そんな愛発に越してきてから1年半ほど経過した頃、澤村さんが設立したのが「愛発ん家」というボランティア団体でした。なぜこのような活動を始めたのでしょうか。

澤村さん「家庭の事情で小浜に戻ることになった時など、人生ですごく落ち込んだことが何度もありました。その度に周りの人たちが助けてくれたんですが、『そんなによくしてもらってもお返しができないからやめて』と手を差し伸べてくれる人たちに言っていました。そうすると、『何を言うとるんや、返してくれなんて思ってない。もし生活が楽になったときに同じように困っている人がいたら同じようにしてあげたらいいだけ』と言われて、この人たち神様かなと思って。この言葉がずっと頭にあったんです。そこから団体の構想につながりました」

血は繋がっていないけれどまるで家族のような人々の優しさに触れ、澤村さんは「自分自身も幸せになることも恩返しの一つ」と学びます。じゃあ自分はどうしたら幸せか、そして同じように困っている人に手を差し伸べるにはどうすべきかと考えた結果が、ボランティア団体を作る事だったのです。

イベントに参加した子どもたちに菌打ちを教える様子はとても楽しそうだった

澤村さん「たくさんの優しさをいただきながらありのままでいられるようになったらめっちゃ楽になったんです。人間誰にでもできないことはあります。でも、できることをみんなで楽しみながらやって、それが少しでも誰かの助けになっていたらみんながハッピーになれるじゃないですか。それが愛発ん家という団体です」

では、具体的にはどのような活動をしているのでしょうか。

澤村さん「例えば、単身のお年寄りの自宅にお弁当をお配りする活動があります。このお弁当は障害のある子どもたちと、その親御さんが集まって作っています。私の子どもも障害があるのでよくわかるのですが、障害があると、学校以外のコミュニティーに参加させることを『迷惑をかけてしまうかもしれない』と躊躇する親御さんが多いんです。ならばそういう子たちを集めてしまえばいいやんと。食事の用意が大変な単身のお年寄りももらって嬉しいし、お互いに繋がりもできます。みんなハッピーじゃないですか?そうやって幸せになる人が増えたら私も幸せなんです。しかもこの地域は『愛を発信する』という名前がついている場所。ここから愛を発信していくんです。素敵でしょ?」

■みんなが集まれる「場所」を作る

このような思いから、澤村さんを中心に市民有志5名が中心となって活動をしてきた「愛発ん家」。お弁当の配布活動のほか、農関連のイベント開催などをしてきました。そして現在絶賛進行中のプロジェクトが「ふるさと茶屋 愛発ん家」のオープン。愛発地区疋田にある、疋田第二会館をリノベーションして、場づくりをしています。

「愛発ん家」オープンに向けて改修が進む疋田第二会館。外観はそのまま、内装や設備の整えていくそうだ(写真提供:澤村梨恵さん)

澤村さん「もともと、みんなが集まれる場所を作りたいと考えていました。自宅をゲストハウスにするとか、いろんな方法を検討していましたが、団体を作ってからしばらくしたある日、福井新聞さんに取り上げていただいたことがきっかけにコトが動いて。新聞を見た県の職員さんが『新福井ふるさと茶屋支援事業(リンク先P35)』に挑戦してみないかとお声がけくださったんです。私一人では無理でしたが、メンバーが『やろう!』と言ってくれたので思い切ってチャレンジしました」

「新福井ふるさと茶屋支援事業」とは、福井県から募集された補助金の名称で、「地域のつながりが強くなることで集落の活動を促進させることを目的に、地域住民主体で、空き家等をリノベーションして住民が集まれる場所の整備やその活動に必要な経費を支援する」というもの。「愛発ん家」はこの支援事業として採択され、念願の拠点づくりが始まりました。途中、役員の交代などで工事が中断するなどもありましたが、来年春のオープンに向けて現在は着々と工事が進んでいます。

澤村さん「『愛発ん家』は一言でいうと、大きな家族みたいな、あったかくて楽しいところにしたいです。週に1回は解放して、朝粥を出すモーニングとかやってみたいですね。昼も夜も、みんなで食べたりお話ししたり、世代関係なくわいわいできるところになればと思います」

また、「誰かのやりたいに対し、背中を押してくれるような人との出会いや情報を得られるような場所にしたい」と言います。

澤村さん「出会いって、すごく大きなきっかけになると思うんです。あとは、どんな小さなことでも一回できると自信になるので、ここでの出会いをきっかけに、若い人にも自分でやってみたらなんでもできるという事を知ってほしい。最初の一歩として『愛発ん家』を使って欲しいです」

■敦賀で手に入れた新しい生き方

敦賀にやってきて3年半。澤村さんはかつての自分と今の自分を比べてこのように語ります。

澤村さん「大阪時代は、正直お金に不自由しない生活をしていましたが、物欲って次から次へと湧いてくるんですよね。そんな欲を捨てて、すっぴんで軽トラに乗っていますが、今の自分の方が好きです。無理矢理働くのもやめて、たくさんの優しさを受けながらありのままでいられるようになったらめっちゃ楽になりました」

イベントに参加した子どもたちやスタッフと一緒に

屈託のない澤村さんの笑顔には、はっとさせられました。自分らしく生きる方法を見つけた澤村さんの姿からは、今までの当たり前とは違う新しい生き方の選択肢を与えてくれるような気がします。そんな彼女や愛発で暮らす人々と出会える「愛発ん家」では、人生がガラリと変わるような素敵な出会いがあるかもしれません。

「愛発ん家」は1月末ごろ完成、各種検査を経て3月ごろにはオープンの予定。一体どんな場所になったのかは、完成後改めてnoteでレポートしたいと思います。