ほんいち本棚No.19-21

混乱の大学時代に出会った 「本を読む」ということ

老舗そば処の「ふ志゛」はリーズナブルで美味しいお蕎麦が食べられる隠れた名店です。店主、藤野昭治さんは約2万5000冊の蔵書を持つ読書家として、ご近所では有名。人文学系の本を中心に読むということで、そのきっかけを尋ねてみると、藤野さんが過ごしてきた時代背景を知ることができました。


普段から、人文学系の本ばかり読んでいます。人文学とは、自分がどのように生きるのか、生きがいに感じることは何かについて考えることです。たくさん本を置けるように書庫も建てたんですよ。2万5千冊自宅にあります。膨大すぎて、僕の本棚を見ても僕がどういう人間かはわからないと思いますよ。

高校生までは一切本を読みませんでしたが、読むようになったのは大学時代。僕が大学に通っていた当時は、学生運動のまっただ中。立命館大学の産業社会学部に入学しましたが、教室の窓ガラスなんて一枚もありません。そんなんだから学校なんて行かなくてもいいじゃんという状態で、レポートだけ提出していました。時間はありましたから、下宿で隣だった京大生がいろいろ教えてくれて、本を読むようになりました。その人は関西の学生運動の事務局長していて、まさに将たる器という感じ。インテリというのはこういう人のことを言うのかと憧れました。

「ふ志゛」のしっぽくそば。しっぽくとは五目やかやくのことを指す。

卒業後は敦賀に帰ってきて実家の蕎麦屋を手伝いましたが、出前中にも本のことばかり考えていましたね。今は朝起きて1時間くらい本を読みます。冊数で言うと、月に大体3冊くらい。本を読むのは自分の精神衛生のためです。自分が無いとすぐに流されてしまいます。本との出会いは人が変わるきっかけになると思います。人との出会いが最も効果的だとは思いますが、僕は本を読む方が性に合っていたんでしょうね。

気になった先生の本は全部読むようにしています。「この先生についていきます!」みたいな。例えば文化人類学だったら山口昌男さん、精神分析だと河合隼雄さん。正直、相性が良ければどんな本でもそれでいいと思いますよ。そういう 本と出会えれば、その人にとって大事な本になるでしょうし。

そば処ふ志

敦賀の老舗蕎麦屋。昭和 25年ごろに今の場所に移転。
以前は別の名前で営業していたが、昭和46年ごろから「ふ志 ゙」に改名。