まちの頼れる“質屋のおやじ”
武井稔さんは、質とリサイクルを中心にリサイクル古着の販売なども手掛ける敏腕経営者。福井市で生まれ育ち、独立をきっかけに敦賀に出店しました。「質屋」という仕事を通して、まちに寄り添いたいという武井さん。しかし、あまり身近ではない質屋というお仕事は一体どんなものなのか。武井さんにお話をうかがうとその本質が見えてきました。

もともとはデザインの仕事がしたくて、デザイン学校を卒業しました。当時は就職氷河期の真っ只中。今のような手厚い就職支援制度はもなかったので、必死で探して見つけた仕事がトラックの運転手でした。でも大きな病気をしてしまって、それを機に実家の質屋を手伝いはじめました。 月給8万円、日曜でも仕事があれば仕事に向かうという感じで、父はとても厳しかったです。その後は自力で独立し、最初に始めた店舗が本町一丁目の店でした。出身は福井市の方なので、嶺南のことはあまり知りませんでしたが、敦賀には当時同業者も少なかったので可能性を感じました。ここでは質預かりをメインに16年ほど、その後は金沢にも店を出し、今年4月に敦賀の店の2階で古着販売も始めました。

質屋という商売には馴染みのない方も多いかもしれませんが、実は鎌倉時代からある職業なんですよ。外国では、公営の質屋があるくらい生活に密着した商売です。簡単に言うと、モノを担保にお金をお貸しするサービスです。お金を借りる方法はいろいろありますが、質はお客様からお預かりする物を基準にお貸し出しするので、無理な貸付はしません。もし返せなかったとしても物を手放すだけで、ローンが残ったり信用情報に傷がついたりすることもありません。銀行は審査が非常に厳しいけれど、僕らはまちのおじいちゃんやおばあちゃん、生活が大変なお母さんや、お小遣いの少ないお父さんに頼ってもらえる場所です。


質屋も、2階の古着屋も、以前やっていたタピオカ屋なども、「ここにあってよかったと思ってもらえる店にしよう」という思いでやっています。商売をすることを「商い」と言いますよね。「商いとは、お客さんを飽きさせない、そして自分も飽きないこと、それがお互いにうまいこと続いて成り立つんだ」と教えてくれた先輩がいました。僕もそう思って、商売をしています。だから僕は、何代も続く大きな質屋になるよりも身近な存在で、まちの「質屋のおやじ」で、やっていきたいと思っています。

RECYCLE COLLECTION mono 7
そんな武井さんがおすすめいただいた本は、『日本のこれからのつくる本』、『日本国紀』、『別冊 2nd アウトドア傑作品』の3冊です。千田書店の「ほんいち本棚 特設コーナー」では、武井さんとこの3冊にまつわるエピソードを掲示中。ぜひ、店頭でご覧ください。